テイラー・スウィフトはなぜ再録することになったのか

音楽

今年の3月からツアー『The Eras Tour』をスタートし、そのツアーの映画化が話題を呼び、「Cruel Summer」がチャートを賑わすなど、テイラー・スウィフトは相変わらずの勢いを見せています。さらに、2024年2月には待望の来日公演も控えています。

テイラーは、過去の自身がリリースしたアルバムを再録し「Taylor’s Version」として、再リリースしています。先日2023年10月27日には自身が生まれた年を冠したアルバム『1989』の再録バージョンをリリースしました。

しかし、なぜ彼女は既にリリース済みのアルバムを再録するという珍しいステップを踏んでいるのでしょうか?この記事ではその背景に迫ります。

経緯

テイラー・スウィフトが音楽界での大きな一歩を踏み出したのは2005年、新しいレーベル「Big Machine Records」と13年間の契約を結んだときでした。この契約では、レーベルがテイラーに前払いをする代わりに、彼女の音源の原盤権をレーベルが持つことになっていました。そして2018年、テイラーはBig Machine Recordsから離れ、ユニバーサルミュージック傘下のRepublic Recordsへと移籍しました。ただし、彼女がBig Machine Recordsとの契約中にリリースした最初の6枚のアルバムの原盤権は、依然としてBig Machine Recordsが保持していました。

  • 『テイラー・スウィフト』 – Taylor Swift(2006年)
  • 『フィアレス』 – Fearless(2008年)
  • 『スピーク・ナウ』 – Speak Now(2010年)
  • 『レッド』 – Red(2012年)
  • 『1989』 – 1989(2014年)
  • 『レピュテーション』 – reputation(2017年)

2019年には、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデを手がけたことで知られるスクーター・ブラウンがBig Machine Recordsを買収。これにより、テイラー・スウィフトの初期作品の原盤権も彼の手に移ることとなったのです。

テイラー・スウィフトとスクーター・ブラウンには大きな確執があったため、この動きは世間を騒がせました。

スクーター・ブラウンとテイラーの確執

スクーター・ブラウン

テイラー・スウィフトとスクーター・ブラウンの間には、カニエ・ウェストが関連する一件で深い亀裂が生じました。

スクーター・ブラウンのクライアントであるラッパーのカニエ・ウェストが、2016年のシングル「famous」で「俺とテイラーはセックスするかもしれない/なぜって?俺があのビッチをフェイマス(有名)にしてやったからさ」と、テイラーとの関係を揶揄する歌詞を披露し、物議を醸しました。さらにミュージックビデオでは、テイラーに似せた裸のろう人形が登場し、これが大きな批判を招きました。このビデオはなぜか今もYouTubeで見ることが出来ます。

「famous」のリリースを巡る騒動が起こっている最中、ジャスティン・ビーバーがカニエ・ウェストやスクーター・ブラウンとのビデオ通話の写真をSNSに投稿し、その写真に「テイラー・スウィフトの調子はどう?」とコメントを添えました。

このようにテイラーとスクーター・ブラウンには大きな確執が存在していました。よりにもよってそんな相手に楽曲の権利が奪われたのです。

テイラーのコメント

テイラー・スウィフトは、スクーター・ブラウンが彼女の楽曲を買収するというニュースを知った後、2019年6月30日に自身のTumblrを通じて長文の声明を公開しました。彼女はこの買収計画について事前に知らされておらず、その事実に対して怒りを表明しました。さらに声明の中で、スクーター・ブラウンから長年にわたって受けてきた嫌がらせについても暴露しました。

何年もの間、私は自分の作品を所有するチャンスを求め、懇願した。その代わりに、私はビッグ・マシーン・レコードと契約し直し、新しいアルバムを1枚出すごとに、過去作品の原盤権を1枚所有できるという契約を提案されただけだった。その契約にサインしたら、スコット・ボルチェッタがレーベルを売却し、それによって私と私の未来も売られることがわかっていたからだ。私は自分の過去を捨てるという耐え難い選択をしなければならなかった。寝室の床で書いた音楽、夢見たビデオ、そしてバー、クラブ、アリーナ、スタジアムで演奏して稼いだお金で買ったお金。

スクーター・ブラウンによる私のマスターの買収が世間に発表されたとき、私はそのことを知った。私が考えたのは、長年彼の手によって受けてきた絶え間ない、人を操るようないじめのことだった。

キム・カーダシアンが違法に録音した電話の断片が流出するよう画策し、スクーターが2人のクライアントをまとめて、そのことについてネットで私をいじめたときのように。(写真参照)あるいは、彼のクライアントであるカニエ・ウェストが、私の体を裸にするリベンジポルノのミュージックビデオを企画したときもそうだった。今、スクーターは、買う機会を与えられなかった私のライフワークを剥奪した。本質的に、私の音楽的遺産は、それを解体しようとした誰かの手に渡ろうとしている。

これが私の最悪のシナリオだ。忠誠心』という言葉が明らかに契約上の概念に過ぎない人物と15歳で契約を結ぶとこうなる。そして、その人が『音楽には価値がある』と言うとき、その価値は、音楽の創造に関与していない人間に従うということなのだ。

スコットに自分のマスターを預けたとき、私はいずれ彼がそれを売るという事実と和解した。まさか買い手がスクーターだなんて、最悪の悪夢を見たこともなかった。スコット・ボルケッタが私の口から『スクーター・ブラウン』という言葉を聞いたのは、私が泣いているか、泣かないようにしているときだった。彼は自分のしていることを知っていた。自分たちと関わりたくない女性をコントロールすること。永久に。つまり永遠に。

ありがたいことに、私は今、私が創作したものはすべて私のものであるべきだと信じているレーベルと契約している。ありがたいことに、私の過去はスコットの手に委ね、私の未来は委ねなかった。そして願わくば、若いアーティストや音楽を夢見る子供たちがこれを読んで、交渉において自分自身をよりよく守る方法を学んでくれることを願っている。あなたは自分の作った芸術を所有する資格がある。

私は自分の過去の作品に常に誇りを持っている。しかし、より健康的な選択肢として、『Lover』が8月23日に発売される。

悲しくてキモい、

💔

テイラー

テイラー・スウィフトが長年にわたって自分の音楽作品の所有権を求め続けたにも関わらず、レーベルのBig Machine Recordsは、彼女が新しいアルバムをリリースするたびに過去のアルバムの原盤権を「稼ぐ」ことを提案しただけでした。テイラーはこれを受け入れず、自身の過去と将来を売るような取引はしたくなかったと述べています。彼女は自分の音楽やビデオ、そして演奏によって得た収益を捨てざるを得なかったと感じています。

さらに、スクーター・ブラウンがレーベルを買収し、テイラーの音楽作品の原盤権も彼の手に渡ったことで、テイラーは個人的な確執と以前からのいじめにより傷ついています。キム・カーダシアンとカニエ・ウェストによる彼女に対する行動も、この感情を強めています。テイラーは、彼女が自分の作品の原盤権を買う機会も与えられずに、スクーターによって奪われたことを深く悲しんでおり、これを彼女の「最悪のシナリオ」と表現しています。

テイラーは、自分の音楽的遺産が彼女の意志に反して解体されようとしていることに対し、非常に落胆しています。また、スコット・ボルチェッタが彼女の音楽の価値を理解せずに、スクーター・ブラウンに売却したことを悲しく思っており、自分の意に沿わない人物に永遠にコントロールされることを懸念しています。

テイラーはこの経験が若いアーティストや音楽を夢見る子どもたちにとっての教訓になり、彼らが自身の権利を守る方法を学ぶことを願っています。

再録音へ

テイラー・スウィフトは、アメリカ東部時間の8月22日の朝、「グッドモーニング・アメリカ」という番組に出演し、インタビューで以前のレーベルとの契約の中で、2020年の11月からは自身の過去のアルバムを再録しても問題ないことが決まっていると説明しました。そして、彼女は過去の楽曲を再レコーディングする意向を公に表明したのです。

2020年11月からの契約で5枚のアルバムをレコーディングし直すことができるの。とてもワクワクしているわ。だって、アーティストが自分の作品を所有するのは当然だから。私は心からそう思ってる。

テイラー・スウィフト

この再録プロジェクトは2021年から始まり、現在も続いています。

わずか2年足らず、2020年に、スクーター・ブラウンはテイラーの楽曲の原盤権を別会社に売却しました。

原盤権と出版権

「レコード会社が権利を持っているのに、どうしてテイラー・スウィフトは再録音ができるの?」と疑問に思うかもしれません。

アメリカの著作権法では、音楽には「原盤権」と「出版権」という二つの権利があります。簡単に言うと、曲の「アイデア」に関わる権利が出版権で、完成した曲を形にした音源に関わる権利が原盤権です。

音楽が作られる過程で、作詞作曲、アレンジの後、録音され、ミックスやマスタリングが施されて最終的な音源が完成します。この完成した音源のオリジナルデータを「原盤(マスター)」と呼び、この原盤の所有者だけがその音源を複製・販売する権利、つまり原盤権を持ちます。通常、レコーディングにかかる費用を出した人や会社が原盤権を持っています。先程まで話していた権利は、すべて原盤権の話です。

一方で出版権は、実際に形となった録音物ではなく、録音前の歌詞やメロディ、楽譜、アレンジなどに関する権利です。テイラー・スウィフトは自分の曲の作詞作曲を行っていたので、出版権を持っていました。そのため、彼女は自分の曲を再録音することができたのです。

再録版の凄まじい人気

このような経緯で、テイラーの過去のアルバムはは再録され、「Taylor’s Version(テイラー版)」としてリリースされています。この出来事は音楽業界におけるアーティストとレコードレーベルの関係に光を当てる事例として広く注目されています。実際、オリヴィア・ロドリゴもテイラーの状況を受け、自身の原盤権の所有についてレコードレーベルと交渉したと公表しています。

このような事情を受けて、多くのファンがテイラーを支持する意味合いも込めて、彼女の音楽を購入しています。再録された曲には微妙な違いがある場合もありますが、元の曲を単に再録音したものであっても、テイラーバージョンがリリースされる度に、原曲を凌ぐ勢いのセールスを記録しています。

残す再録は・・・?

権利がテイラーのもとにないアルバムと、再録音したアルバムを表にまとめてみました。

アルバム名リリース年
Taylor Swift2006
Fearless2008
Speak Now2010
Red2012
19892014
reputation2017
原盤権がテイラーにないアルバム
アルバム名リリース年
Fearless (Taylor’s Version)2021
Red (Taylor’s Version)2021
Speak Now (Taylor’s Version)2023
1989 (Taylor’s Version)2023
再録したアルバム

テイラー・スウィフトの再録プロジェクトには、まだ『reputation』と彼女のデビューアルバム『Taylor Swift』が残っています。「Look What You Made Me Do」の再録音バージョンは、Amazon Prime Videoのドラマシリーズ『Wilderness』の予告編で一部が公開されており、『reputation』の再録版はもう間もなくリリースされるかもしれませんね。デビューアルバムは最後になるのでしょうか。続報に期待です。

ちなみに

移籍後に出したアルバム『Lover』では、Big Machine Recordsの社長をディスった曲『The Man』

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