アートとテクノロジーが融合するとき、新しい創造物や感動が生まれるのは、まるで魔法のようです。Appleとその製品、そして歴史に名を刻んだアーティストたちとの関係は、ただの偶然ではなく、深く、特別なものです。パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、アンディ・ウォーホル、ビートルズといった巨匠たちの芸術は、Apple製品、スティーブ・ジョブズの思考、そして私たちの生活に、確かな足跡を残しています。
ジョブズはビートルズや日本の版画、さらには世界の著名アーティストの作品に心を奪われ、そのエッセンスをAppleの製品開発にも取り入れました。彼が愛したアートが、Appleのデザインや哲学、私たちの生活にどのように息づいているのか。この記事で、その魅力的な探求の旅に出かけます。
Appleとパブロ・ピカソ
まずは、絵画の巨匠:パブロ・ピカソとAppleの関係についてです。
finder
Macのファイル管理アプリのFinderのアイコンはパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)の《Two Characters (二人の人物)》からインスピレーションを受けて作成されたと言われています。
この絵の左側の人物の顔と、色合いがfinderのアイコンとほぼ同じですね。ピカソはキュビズムの手法を取り入れ、人物の顔を描くときに正面と横顔を巧みに組み合わせて表現しています。
Think Different
「Think different」というスローガンは、1997年にApple Computerが開始した広告キャンペーンで使われました。この言葉の意味は「発想を変える」、「ものの見方を変える」などです。このキャンペーンは、危機的な状況に陥ったAppleに、スティーブ・ジョブズが復帰した直後に実施されました。ジョブズはAppleの創業者ですが、一度は会社を追われ、紆余曲折の後に1997年にCEOに復帰しました。このキャンペーンは、Appleの復活の原動力となりました。このキャンペーンでは、世界を変えようとした偉大な人物たち、例えばアインシュタインやガンジーなどがフィーチャーされました。
ピカソは、このキャンペーンのポスターにも登場。アートの世界から世界を変えたパブロ・ピカソ。彼のポートレート写真が使用され、Appleの革新的でクリエイティブな精神を象徴しています。
アンリ・マティスとMac
初代Macintoshのパッケージデザインは、リンゴとMacintoshをモチーフに、原色を使ってシンプルに描かれていました。これは、通称「Picasso Mac」と呼ばれ、長らくピカソの影響を受けてデザインされたと広く認識されていました。しかし、実際にはフランスの著名な画家、アンリ・マティス(Henri Matisse)の作品からインスピレーションを受けて生まれたものでした。この事実は、アイコンのデザイナー本人であるJohn Casado氏が明らかにしたものです。
原色を使った色合いと、単純で洗練された線のデザインから、マティスの作品の影響が見て取れます。
日本画とスティーブ・ジョブズ
ジョブズは日本の新版画の美しさに魅了されていました。
新版画(しんはんが)とは、明治30年前後から昭和時代に描かれた木版画のことです。浮世絵の近代化と復興を目指して制作され、「浮世絵版画」とも呼ばれます。
そのシンプルで洗練されたデザインは、彼自身の美的価値観と深く共鳴していたと思われます。
川瀬巴水
ジョブズは子供の頃、親友のビル・フェルナンデスの家で川瀬巴水の絵が飾ってあるのを見ました。
川瀬巴水(かわせ はすい)は、日本の浮世絵師、版画家で、20世紀初頭に活躍しました。1883年に生まれ、1957年に亡くなりました。川瀬巴水は、日本の風景版画において非常に影響力のある人物で、その作品は日本の自然や風景、建築物を美しく、詩的に描写しています。
ジョブズはは川瀬巴水の作品に魅了され、日本を訪れた際には東京の画廊で川瀬巴水の新版画を何枚も購入したそうです。
この事実については、NHKが詳しく追っていたので、気になった方は以下をご覧ください。
橋口五葉
1984年1月、28歳のスティーブ・ジョブズが新しい「マッキントッシュ」コンピュータを発表した際の宣伝用写真には、日本の新版画が映し出されていました。それは浴衣を着た女性が髪を梳ける様子を描いた絵で、このイラストは橋口五葉という芸術家が1920年に制作した新版画「髪梳ける女」という作品でした。この作品では、女性の流れるような髪のつやや量感が細かく、美しく表現されています。
ジョブズは自身が所有していたこの美しい作品をスキャンし、マッキントッシュのスクリーンに表示して宣伝用写真に使用しました。当時、実際のアート作品をデジタル化してコンピューター上に表示する技術自体が、多くの人々にとって新しく、驚きのものでした。
鳥居古言人
AppleのCEOを10年務め、ジョブズとも親交が深かったジョン・スカリー氏によると、ジョブズの寝室には日本の版画が飾ってあったそうです。
スティーブの寝室にシンプルな一人用のベッドがあり、壁には、アインシュタイン、ガンディー、そして、女性を描いた日本の木版画がかかっていました。ほかにあったのは、ティファニーランプだけでした
ジョン・スカリー 出典:NHK
ジョブズの寝室にあった「女性を描いた日本の木版画」は、鳥居言人(とりい ことんど)「朝寝髪」(あさねがみ)とみられます。彼は1983年3月に初めて訪れた銀座の画廊でこの作品を購入したそうです。
ジョブズはミニマリストとして知られ、彼の寝室には限られたアイテムしかなかったことから、その中に日本の版画が含まれていたという事実は、それがジョブズにとって非常に価値あるもので、彼の感性や趣味に深く響いていたことがわかります。
ジョブズの日本画に対する深い愛情とリスペクトは、彼の美的センスや製品へのこだわり、そしてそれを超えた人生哲学につながっていると感じます。異文化に対するオープンマインドや芸術に学ぶ姿勢は、私たちにも大いに学ぶべき点であり、それが新しい価値観や視点を持ち、自身の人生をより豊かにする一助となるでしょう。
アンディ・ウォーホルとスティーブ・ジョブス
ウォーホルとスティーブ・ジョブズが初めて出会ったのは、ジョブズがジョン・レノンとオノ・ヨーコのの息子、ショーン・レノンのために、マッキントッシュコンピュータを設置した時です。
1984年10月9日、スティーブ・ジョブズは9歳の誕生日パーティに参加しました。パーティのゲストには、ウォルター・クロンカイト、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリングなど、著名な人物も招待されていました。パーティは、ショーン・レノンの誕生日を祝うものでした。
ジョブズはショーンに贈り物として、その年にリリースされたばかりのMacintoshコンピュータを持ってきました。
その日の出来事を、ウォーホルは自身の日記に以下のように綴っています。
ショーン(ジョン・レノンの息子)の寝室に行くと、そこにはショーンがプレゼントしたマッキントッシュ・モデルのアップル・コンピュータをセットアップしている若者がいた。私は、「ある男が私に何度も電話をかけてきて、私にパソコンを贈りたいと言っていたんだけど、私は一度も電話をかけ直したことがないんだ。」と言ったんだ。そしたら彼は『ああ、それは僕だ。僕はスティーブ・ジョブズだ。』って。彼はとても若くて、大学生みたいだった。そして、今ならまだ送ってくれると言ったんだ。そして、それを使って絵を描くレッスンをしてくれたんだ。今はモノクロだけだけど、もうすぐカラーになるらしい。そして、キースとケニーがそれを使った。キースはすでに一度Tシャツを作るのに使ったことがあったけど、ケニーは初めて使ったんだ。この発明を手伝った若い天才がすぐそこにいるのに、私はとても年をとっていて、時代遅れだと感じた。
We went into Sean [John Lennon’s son]’s bedroom–and there was a kid there setting up the Apple computer that Sean had gotten as a present, the Macintosh model. I said that once some man had been calling me a lot wanting to give me one, but that I’d never called him back or something, and then the kid looked up and said, ‘Yeah, that was me. I’m Steve Jobs.’ And he looked so young, like a college guy. And he told me that he would still send me one now. And then he gave me a lesson on drawing with it. It only comes in black and white now, but they’ll make it soon in color…I felt so old and out of it with this young whiz guy right there who helped invent it.
アンディ・ウォーホル
スティーブ・ジョブズがまだ有名ではなかった駆け出しの頃、彼はポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルに自らの製品、マッキントッシュをプレゼントしたいという熱意で何度も電話をかけていました。その行動力に驚きます。
アンディ・ウォーホルは広告を題材にした作品の中で、AppleのMacintoshがモチーフの作品を残しています。
ビートルズとボブ・ディランとスティーブ・ジョブス
スティーブ・ジョブズはビートルズとボブ・ディランの大ファンで、Appleの製品発表会でよく彼らの音楽を流していました。特に、ボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」とビートルズのアルバム「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」が彼のお気に入りでした。
2007年の初代iPhoneの発表会の際に、ジョブズはビートルズの楽曲『With A Little Help From My Friends』を再生していました。
Think different
先程紹介した、Think differentの広告ポスター。ここにもジョン・レノンとオノ・ヨーコ、ボブ・ディランの写真が使用されました。
Apple “Think Different” poster https://t.co/6gJMeqgRIZ #BobDylan pic.twitter.com/yhYXRuj5n1
— Bob Dylan Gold (@BobDylanOnVinyl) February 20, 2019
幼少期にマザーを歌う
「母さん行かないで。父さん戻ってきて」。青年ジョブズはジョン・レノンの歌「マザー」をたびたび歌った。友人らには「両親を知らない苦痛だ」と打ち明けた。
https://japanese.joins.com/JArticle/144942?sectcode=440&servcode=400
「私のビジネスモデルはビートルズだ。」
スティーブ・ジョブズは、2003年のインタビューで、自身のビジネスモデルをビートルズに例え、以下のように語っています。
「私のビジネスモデルはビートルズだ。 正確に言えば、ビートルズのメンバー間の関係です。 メンバーの4人は、何時も、他のメンバーがもたらす、外からの影響、流行り、考えなどに目を光らせています。特に、マイナスをおよぼしそうなメンバーの考えや意見には、妥協せずに、指摘しあいます。結果として、4人分の創作成果ではなく、何十人分にも相当する創作成果を産み出すことが出来ているのです。これこそが、私の願うビジネス・スタイルなのです。 独りでは、ビジネスを成功させることができません。沢山の参加者が、忌憚のない意見を言い合えてこそ、現代ビジネスを成功させることができると確信している次第です。」
スティーブ・ジョブズ
Strawberry Fields Foreverとスティーブ・ジョブズ
ジョブズは、ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のアウトテイクを聴き、その創造過程を自分の製品作りと重ねています。
今でこそ、ビートルズのアウトテイクはアンソロジーシリーズや2021年のミックス版などで公式に聴くことができますが、当時は海賊版を購入するしか方法がありませんでした。ジョブズはその海賊版を手に入れ、アウトテイクを聴き比べ、ビートルズの楽曲がどのように進化していったか、その制作過程に深く感銘を受けました。
この曲は複雑な曲で、彼らが何度も行き来し、数ヶ月かけてようやく完成させた創作過程を見るのはとても興味深い。レノンはいつも私の大好きなビートルズだった。[レノンが最初のテイクの途中で止まって、バンドに戻ってコードを修正させるのを笑う。] ちょっと回り道したのを聞いた?うまくいかなかったから、元に戻って最初からやり直したんだ。このヴァージョンはとても生々しい。このバージョンまでなら、他の人がやっていることも想像できる。たぶん、作曲や構想はしていないかもしれないが、確実に演奏している。それでも彼らはやめなかった。彼らは完璧主義者だから、どんどん続けていった。
“It’s a complex song, and it’s fascinating to watch the creative process as they went back and forth and finally created it over a few months. Lennon was always my favorite Beatle. [He laughs as Lennon stops during the first take and makes the band go back and revise a chord.] Did you hear that little detour they took? It didn’t work, so they went back and started from where they were. It’s so raw in this version. It actually makes them sound like mere mortals. You could actually imagine other people doing this, up to this version. Maybe not writing and conceiving it, but certainly playing it. Yet they just didn’t stop. They were such perfectionists they kept it going and going.
スティーブ・ジョブズ 出典:http://glasscapsule.com/2011/11/steve-jobs-and-strawberry-fields-forever/
私は30代の頃、このことがとても印象に残っている。彼らがどれだけ努力していたかがわかる。レコーディングのたびに、彼らは何度も何度も作業を繰り返した。完璧に近づけるために、何度も送り返されたんだ」。[3テイク目を聴きながら、楽器編成がより複雑になっていることを指摘する)。アップルでのモノ作りのやり方は、しばしばこうだ。新しいノートブックやiPodのモデルの数だってそうだ。デザイン、ボタン、機能の操作方法など、詳細なモデルを作成し、改良に改良を重ねるのです。それはとても大変な作業ですが、最終的にはどんどん良くなっていき、やがて「うわ、どうやったんだ?ネジはどこ?」ってなるんだ。
This made a big impression on me when I was in my thirties. You could just tell how much they worked at this. They did a bundle of work between each of these recordings. They kept sending it back to make it closer to perfect. [As he listens to the third take, he points out how the instrumentation has gotten more complex.] The way we build stuff at Apple is often this way. Even the number of models we’d make of a new notebook or iPod. We would start off with a version and then begin refining and refining, doing detailed models of the design, or the buttons, or how a function operates. It’s a lot of work, but in the end it just gets better, and soon it’s like, “Wow, how did they do that?!? Where are the screws?
スティーブ・ジョブズ 出典:http://glasscapsule.com/2011/11/steve-jobs-and-strawberry-fields-forever/
このスティーブ・ジョブズの言葉は、ビートルズ、特にジョン・レノンの楽曲制作プロセスの複雑さと持続的な努力を称賛しています。ジョブズはレノンとビートルズの曲作りのプロセス、特に一つの曲を何度も練り直し、改良して完璧に近づけようとする姿勢に感銘を受けているようです。彼らが音楽作りにおいて細部にまでこだわり、最良を求めて停滞することなく前進し続ける姿勢が、ジョブズにとって大きな影響を与えたと言えます。
ジョブズの言葉から、ビートルズの楽曲は複雑で、それが完成するまでには多大な努力と時間、そして試行錯誤が必要だったことが伺えます。それはジョブズ自身のビジネスや製品開発においても同様で、Appleの製品が完成するまでには、無数のアイデアの試行錯誤と改良が重ねられています。それは大変な作業ですが、その結果、ユーザーが「どうやって作ったのだろう?」と驚嘆するような製品が完成するのです。
ジョブズがビートルズのクリエイティブなプロセスからインスピレーションを受け、それをAppleの製品開発に取り入れた点が非常に興味深いと感じます。アーティストとしてのビートルズと起業家・イノベーターとしてのジョブズという、異なるフィールドの人物が共通の価値観やクリエイティビティを共有しているところに、アートとビジネス、テクノロジーがどのようにリンクし、相乗効果を生み出すかのヒントがあると感じます。これは、どの業界にも共通する普遍的な価値であり、常に学び、改良し、完璧を追求する姿勢の大切さを改めて認識させられます。
『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』とMacの起動音
彼は1980年代後半 Appleでサウンド デザイナーとして働いたジム・リークス氏は、Macの起動音をビートルズの楽曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を参考にして作りました。
リークス氏は初期のMacの起動音を非常に不快に感じていました。その音は、当時頻繁に発生していたコンピュータのクラッシュと再起動に伴い、何度も繰り返し耳に入ってきたからです。
それに困り果てたリークス氏は、公式には許可されていないものの、独自に起動音を変更する決断をしました。ビートルズの「A Day in The Life」を参考にし、彼は自宅のリビングでキーボードを使ってCメジャーの音を録音し、それがあの有名なMacの起動音になりました。
さいごに
アートとテクノロジーが交差するところに、革命的なイノベーションが存在します。スティーブ・ジョブズとAppleは、パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、アンディ・ウォーホル、ビートルズといった著名なアーティストたちから深いインスピレーションを受け、それを製品とビジョンに反映させました。
彼らアーティストたちの創造性とビジョンは、Appleの製品がただのテクノロジーデバイスでなく、私たちの生活、文化、感性に深く根ざしたアートピースである理由を明らかにしています。ジョブズの愛したアートと音楽が、彼のビジネスとイノベーションへのアプローチにどのように影響を与え、そして今日のAppleの製品とカルチャーを形作ったのかを探る旅は、まさにアートとテクノロジーが一体となった革新の物語です。
今、私たちが手にするAppleの製品一つ一つには、ジョブズと彼が敬愛したアーティストたちの精神が息づいています。それは、単なるツールではなく、私たちの生活と感性を豊かにするアートワークなのです。これからも、その革新的な精神が、未来のテクノロジーとアートの融合を牽引していくことでしょう。
コメント
Your post really made me think. I appreciate the new perspectives you’ve introduced here. Keep up the excellent work!
Thank you for your kind comment! It’s encouraging.