近代絵画の父ポール・セザンヌと、現代音楽の教科書ザ・ビートルズ

アート

今日のテーマは、ビートルズとポール・セザンヌの偉業を、共に並べることでより理解を深めようという記事です。ビートルズは世界的に有名で、その影響力や偉大さは多くの人々に知られています。彼らは現代の音楽の教科書とも言える存在で、ビートルズの影響を受けていないロックやポップスはほとんど存在しないと言われています。さらに、ビートルズからはプログレロックやメタルなど、多岐にわたる音楽ジャンルが派生しています。

一方、ポールセザンヌは、彼の偉大さが十分に伝わっていないと感じることがあります。しかし、セザンヌは絵画界で、ビートルズと同じくらいの影響力を持つアーティストで、彼の作品や思想からは印象派、キュービズム、フォービズムなどの芸術運動が派生しています。

つまり、ビートルズが音楽界に与えた影響と同様に、ポールセザンヌも美術界において同じくらいの影響を持っているのです。

今回は、セザンヌとビートルズがどのようにそれぞれの世界で影響を与えたのかをわかりやすく振り返ります。

独自の視点・解釈を芸術に押し上げるという偉業

ポール・セザンヌ:俺の目にはこう映る・これが美しい

ポール・セザンヌ

セザンヌは個人的な感情や視点を大切にしました。これは、20世紀の芸術家たちが自己表現の重要性を認識する一因となりました。また、形と色の関係、物体の構造と空間の関係に焦点を当てた作品を生み出しました。彼の視点は、後の多くの芸術家たちに新しい可能性を示しました。

セザンヌ以前の絵画は、自然の美しさや、目に見える光の美しさ、女性の美しさなど目に見える対象を美しく書くという絵画がほとんどでした。しかしこれに異を唱え、絵画に革命を起こしたのがセザンヌです。「絵は絵」として、その中の構図や色使いなど、技巧的な部分から生まれる美しさに焦点を当てた作品を数多く残しています。これは、現代絵画の大きな土台となっています。

セザンヌは、自然をリアルに描くという従来のアプローチから一歩踏み出し、自然に対して自らの解釈を加え、それを独自の美的言語で表現するという偉業を成し遂げました。彼のこの革新的なアプローチは、後の芸術家たちに新たな可能性を示し、現代美術の発展に寄与しました。

ビートルズ:音楽を自己表現ツールに押し上げた大革命

ザ・ビートルズ

ビートルズが自分たちで作詞作曲を行うというスタイルは、当時のポピュラーミュージックの世界に革命をもたらしました。それまでのポップミュージックのアーティストは、多くの場合、他の人が書いた曲を演奏するのが一般的でした。ビートルズの登場は、アーティスト自身が自分たちの音楽と歌詞を書くという新しいパラダイムを確立しました。

ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、リンゴ・スターは、それぞれが個々のアーティストとして成長し、自分たちの感情、思考、経験を歌詞と音楽に込めました。これにより、ビートルズの音楽は非常にパーソナルで、リアルなものとなりました。

後世に影響を与え、派生から新しいジャンルが生まれるという偉業

ポール・セザンヌと印象派、そしてキュビズム・フォービズムなど現代絵画へ

セザンヌの技法や考え方は、印象派の芸術家たちに大きな影響を与えました。さらに、20世紀初頭のキュビズムやフォービズムといったムーブメントは、セザンヌの作品から多大なインスピレーションを受けています。

印象派との関わり

印象派は、19世紀後半のフランスで生まれた美術の運動で、特定の瞬間の光や色を捉えることを重視し、屋外での制作や日常の風景を題材とするなどの特徴を持っています。この運動の名前は、クロード・モネの作品「印象、日の出」から取られました。

クロード・モネ「印象・日の出」1872年

1874年に、印象派のアーティストたちは「独立芸術家協会」を結成し、第1回印象派展を開催しました。この展覧会は、公式のサロン展に拒絶されたアーティストたちが自らの作品を展示する場として企画されました。モネ、ルノワール、ピサロ、シスレーなど、後に印象派の主要なアーティストとして知られる人々が参加しました。

ポール・セザンヌもこの第1回印象派展に参加しましたが、彼のスタイルは印象派の他のメンバーとは異なっていました。セザンヌは、色彩や光の捉え方において印象派の影響を受けていましたが、物体の形や構造に対する強い関心を持っていました。このため、彼の作品は印象派の即時性や流動性とは異なる、より構築的な特徴を持っています。

セザンヌは、印象派の展覧会には第3回まで参加しましたが、彼のアプローチは次第に印象派から離れ、独自の道を歩むようになりました。彼の作品は、後のキュビズムや20世紀のモダニズムの発展に大きな影響を与えました。

総じて、第1回印象派展は、伝統的なアート界に挑戦する新しい運動の始まりを示すものであり、セザンヌを含む多くのアーティストにとって、自らの作品を広く展示する重要な機会となりました。

ポール・セザンヌ「オーヴェール=シュル=オワーズの首吊りの家」1873年

ポール・セザンヌは、1874年に開催された第一回印象派展に「オーヴェール=シュル=オワーズの首吊りの家」を出展しました。

私だって、何を隠そう、印象主義者だった。ピサロは私に対してものすごい影響を与えた。しかし私は印象主義を、なにか美術館の作品のように堅固で、永続的なものにしたい、と願ったのです。

ポール・セザンヌ
ポール・セザンヌ「モデルヌ・オランピア」1873年

キュビズムへの派生

ポール・セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』1895-1900年

セザンヌのりんごの絵の凄さは、「多視点」のアプローチにあります。従来の絵画は一つの視点からの描写が主流でしたが、セザンヌは異なる視点からのりんごの姿を同時にキャンバス上に捉えることで、立体的で動的な印象を与えました。

この多視点のアプローチは、物体の本質や存在を捉える新しい方法として、後のキュビズムなどの芸術運動にも影響を与えました。

ポール・セザンヌ「大水浴図」1898-1905年
パブロ・ピカソ「アビニョンの娘たち」1907年

先程のセザンヌの「大水浴図」の後、パブロ・ピカソによって描かれた「アビニョンの娘たち」。キュビズムを代表する絵画です。構図や色使いなど影響を受けています。

ポール・セザンヌ 「赤い肘掛け椅子の婦人」 1877年頃
パブロ・ピカソ「坐る女」1909年

こちらも明らかにセザンヌの「赤い肘掛け椅子の婦人」を意識した作品。キュビズムは敢えて軽薄に言うと、セザンヌの拡大解釈なのです。

「自然は球体、円錐、円筒として取り扱われねばならない」

ポール・セザンヌ
ポール・セザンヌ「サント・ヴィクトワール山」1906年
ジョルジュ・ブラック「レスタックの家」1908年
ピカソ「オルタのレンガ工場」1909年

フォービズムへの派生

ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」1904年
アンリ・マティス「豪奢・静寂・逸楽」1904年

セザンヌは自然界の形を幾何学的な基本形に分解する手法を採用しました。このアプローチは、フォービストたちにも影響を与え、彼らは形と構造をさらに抽象化し、簡略化しました。

セザンヌは自然をリアルに描写するのではなく、自らの解釈を加えて描きました。フォービストたちも、自然を独自の視点で再解釈し、抽象的な表現を採用しました。

ビートルズから、サイケロック・プログレ・ヘヴィメタなど現代音楽へ

自分たちで作詞作曲を行うことで、音楽のスタイルやジャンルに多様性を持たせることができました。彼らはロック、ポップ、サイケデリック、フォーク、クラシックなど、多様な音楽スタイルを取り入れ、それをビートルズ独自のサウンドに昇華させました。

そしてビートルズの音楽は、プログレッシブロックやメタルロックなど、多くのロックジャンルの発展に寄与しました。彼らの実験的なアプローチは、後の多くのバンドやアーティストに影響を与え、新しい音楽スタイルの誕生を促しました。

“Tomorrow Never Knows” (1966) – サイケデリックロックの先駆け

アルバム「Revolver」に収録。ループやエフェクトが多用され、非常に実験的なサウンドが特徴で、サイケデリックロックの発展に寄与しました。

サイケデリックロック:The Rolling Stones – “She’s a Rainbow” (1967)

“A Day in the Life” (1967) – プログレッシブロックの先駆け

アルバム「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」に収録。オーケストラルなアレンジと複雑な構造が特徴で、プログレッシブロックの発展に寄与した楽曲です。音楽と音響技術の融合が見られ、後のアーティストに多大な影響を与えました。

「A Day in the Life」は、異なるセクションが融合した複雑な構造を持っています。オーケストラルなパートとロックパートが組み合わさっており、これはプログレッシブ・ロックの特徴を先取りしています。

プログレッシブロックの代表曲:Pink Floyd – Echos (1971)

アルバム「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」は、その革新的なプロダクションと音楽的アプローチで、プログレッシブ・ロックに多大な影響を与えました。このアルバムは、異なる音楽スタイルと実験的な録音技術を取り入れ、一貫したテーマやストーリーに沿った楽曲で構成されています。これは、後のプログレッシブ・ロックバンドが追求するコンセプトアルバムの先駆けとなりました。

“Helter Skelter” (1968) – ヘヴィメタル/ハードロックの先駆け

アルバム「The Beatles (White Album)」に収録されているこの曲は、その重いギターリフと激しいドラムが特徴です。パウリング・ノイズと生のエネルギーが溢れており、後のハードロックやメタルロックに大きな影響を与えました。

ヘヴィメタル:Black Sabbath – “Iron Man” (1970)

最後に

セザンヌとビートルズ、二つの異なるアートの世界での巨星。しかし、彼らの持つ革新的な視点やアプローチは、それぞれの分野での歴史を大きく変えることとなりました。彼らの業績は、今後も多くのアーティストたちに影響を与え続けることでしょう。

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